コンピューターおばあちゃんの会
小      説

霧が降る

    その

 北陸の冬は厳しい。表日本とは天候が逆の感じである。天候が悪いと即工期に影響する。(工期・採算等) そんな厳しい冬のさなか、約束の三ヶ月を4迎えようとした或る日、名古屋支店長から呼び出しがかかる。
すわ、後任者と引継ぎの打ち合わせかと、ホットした瞬間
「イヤまてよ、工事の引継ぎは慣例上、先ず現場で行うものだぞ。なにか臭いなこれは」と我にかえる。

 支店長室には、なんと大親分の専務が同席されているではないか。
「どうだ、現場の状態は?」
イメージ
絵:明珍秀子
 型どうりのご質問。
「大方の段取りはつきましたが、雪は多いし、(コレコレと霧のお話も)みんな難渋しています」
「北陸とはそういうところだ。そんな『モノ』は、線増工事にはつき物だ」
 と軽く一蹴される。なにせ、大親分には、下関支店長時代から、ウス目をかけていただいた手前逆らえない。で、矛先を支店長に向ける。
「後任の引継ぎですが、いつですか?」
「そのことよ。横幕君、実はなぁ」
 と、いつになくご機嫌の態。差し出された一片の紙に思わず「ゲ〜」は胸の中

 『名古屋支店に転勤を命ず』 とんでもないこと。 参った 参った
「社宅は味鋺(北区)に一戸建てを用意しました」
 途中、入室した総務課長の弁。知らぬが仏、着々と北陸路への包囲網が引かれていたとは不覚なり。

 早速、例の「横ちゃん上司」に電話で、ことの始終を報告する。
「全然話が違いますよ」
「専務がなぁ・・・そういうこっちゃ。乗りかかって船だ。しっかりやってこい。困ったら俺の秘蔵ッ子を応援に出すから、ウンが付いたら運がつくかもしれないぞ。ワッハッハ〜〜」
 すっかり引導を渡されて、また雪も霙(みぞれ)もまして霧まで降る北陸路へいそいそと。
これが三ヶ月の口車に乗って、延々二年に及ぶ事の発端である。再び現場では?

 専務殿の一喝に観念したものの、すっかり意気消沈の我が身。帰ってみればおさらばする筈の現場では、相も変らぬ霙(みぞれ)混じりの鉛色の世界。
でもそこはようすけ、乾坤一擲*2。本腰の上にも本腰をと気をとり直しての門出。

 ところが、二年の間に霧の話どとろではない、降って湧いた事件に巻き込まれていく事など知る由もない。報道記者に囲まれ挙句、テレビ、ラジオの二ユースに流され事後処理に不眠不休で追われた記憶はいまも生々しい。
次回に

ようすけ

*2 乾坤一擲(けんこんいってき)
    → 運命をかけて大きな勝負をすること。(大辞林第二版より)
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