コンピューターおばあちゃんの会
小      説

霧が降る

    その四

 ある会合の席、隣接現場の所長との話の中で、例の話がでる。私の話に相槌を打つものの、さほど困惑、切実感が窺えない。
さてはなにかよい対策でもあるのかなと探りを入れても、
 「たまに被るようですが、仕方ないですな」
と軽く受け流されて終わる。向こうが無神経なのか、私が神経質なのか、しかし実害を受けるのは作業員であって、条件は同じであるはずなのだが・・・
 隣工区のS所長は線増工事の大ベテランだけに、その手の事には麻痺しているのではないか?しかし、いくら所長が麻痺しているといっても作業員までもとは考えにくい。なにかあるぞ。
 それから数日後、臨時列車の運行時刻をダイヤグラフに記入して、思わずハットひらめくものがあった。そうか。頻度か!まさかと思うが調べて見る価値があるな。考えにくい事だが、あの空爆に時間差があるのでないか?
 私の推測はこうである。昔の旅客は律儀である。当時は駅に停車中は決して用を足さないようにと躾られていたものである。(駅構内を汚さぬために)そこから推測するとなにやら、謎が解けてくるようだ。上り福井駅からの旅客は座席を確保し、やれやれ安堵して、さてと例の個室に。下りの場合、鯖江駅を過ぎた頃、「もうすぐ福井か、着く前に軽くして」とこれも個室に。それぞれの準備時間を考えれば、その瞬間が当現場に当るのではないか、上り下り共々!だが確証はない。それでは、実地検証をしてみよう。その結果がどうあれ現状が変わるものではないが、これも後学?のためだ。
 渋る職員に、福井駅ー鯖江駅間を乗車させ、個室出入りの調査に当らせた。「確かに個室は切れ間なくふさがっていましたが、どこで落としたのかは見当がつきませんから・・・」
 当たり前のことで、大して参考にはならなかったが、やはり当現場内での 落下が多いような妙な確信をもった。 慣れてきたのか、霧をさばく術を会得したのか、はたまた観念したのか、以前 程騒がなくなってきたのにホットした矢先、今度は黒い霧が私にふってきた。
 工事も雪のため進捗はかばかしくない。橋脚工事はともかく、盛土工事は 最適含水比の確保が難しく、遅遅として進まない。これも皆、雪、雨、霙による天候不順のなせるところ。如何ともし難い。後日、そこに降って湧いた黒い霧に振り回されるとは・・・・
(最適含水比とは、土に占める水分の割合。多すぎても少なくても不可。土質試験によって決める。一定の割合になるまで次の工程には進めない)
次回に

ようすけ

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