コンピューターおばあちゃんの会
小      説

霧が降る |8

    その八
 

                   最終回

 天災でもなく、地変でもない。紛れもない人災、工事施工ミスから生じた事故であった。せめてもの救いは怪我人の出なかったことである。この処理の結末は私の手の届くところではない。上層部、もっと言えば会社全体の問題である。

 一昨年晩秋、この北陸路に足を踏み入れ、天候や霧との悪戦苦闘の末、ようやく完成にこぎ付け、愁眉を開いた矢先、想像も出来ない事故を引き起こした。決して油断していたわけでもない。詰の怖さは知っているつもりだったが、思わぬ落とし穴に嵌ってしまった。技術以前の単純ミスが引起したにしては、あまりにも大きな代償を払わなければならない。経済的にも精神的にも。

 国鉄工事区での道床、法面崩落の事故糾明会議、報告書の作成など徹夜に及んだ。原因解明の過程で思わぬ壁に突き当たった。これは事実を事実として公表できない事情があって、私を逡巡させた。

 国鉄側関係者も事実を知って、皆苦渋に満ちていた。事故を引き起こした指揮者が誰であれ、一切の責任は私と会社にある。
請負業(ウケマケ)の宿命でもあるのだ。
      絵: 明珍秀子
 急遽駆けつけた本社からの担当重役、支店長に従い、金沢管理局岐阜工事局、ほか関係数箇所。丸の内国鉄本社へは社長。謝罪の行脚は胃が痛くなるほど辛かった。

 約一ヵ月後、国鉄本社から当社へのペナルティが下った。その頃現場では竣工検査も終わり工事は完成した。本社の土木部長、名古屋支店長を交えての完成慰労会も、盛り上がりに欠け形ばかりに終始した。

 「横幕君を支店に置いてくれますね」と支店長。
 「いや、東京に戻すよ。社の方針で・・・」

  思えば一昨年晩秋 「横ちゃん、チョットな〜」が事の始まり、重い尻を持上げての北陸路行。降る霧に悩まされ,“弁当忘れても傘忘れるな”という降雪、霙の多さに泣かされ、この地未曾有の水害も被り、はたまた横領事件に巻き込まれ、散々な痛い目に遭ってきた。よく身体が持ったものよと我が身を誉める間もなく、締めくくりは列車運行妨害。ウンもつかず、運もつかずの霧の現場から離れ、東京青山の本社に戻ったのは、やはり晩秋の季節だった。

 「ご苦労さんだったな〜」 温かく迎えてくれた一人に、あの“横ちゃん”上司がいた。

 国鉄から会社へのペナルティは当然の帰結だったが、会社から私へのペナルティはなかった。が、肩身の狭い事にはかわりがない。

 もう鉄道現場は懲り懲りと肝に銘じたのも束の間、東名高速道工事を挟んで、その後またまた鉄道現場を渡り歩くことになる。今度は新線、霧も降らない東北、上越新幹線現場だ。

                            おわり

 
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ようすけ

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