コンピューターおばあちゃんの会
小      説

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    その八

 ニューヨークの銀行に勤めている長女が、幼稚園に入った時、家内が音楽の勉強をさせてみようと言い出した。

 安西愛子さんが、阿佐ヶ谷に音楽教室を開いているが、最近、お茶の水にも教室が出来て、近いから通うのに便利だと言うことで、入会させた。
 安西愛子さんは、NHKの歌のおばさんとして有名で、杉の子子ども会合唱団で生放送によく出演されていた。
 歌手時代には、「お山の杉の子」「めだかの学校」「とけいの歌」「ゆりかごの歌」「あさはどこから」 等々懐かしい。お茶の水の駅から、駿河台の坂を少し下った左側に志村薬局が有り、その二階が教室だった。

 志村さんは、安西さんのご主人で薬剤師であった。後年、参議院に出馬されたときは、志村愛子さんで出られたので、その間の事情を知らない人は、不思議に思われたであろう。

 ある日、教室を覗いて見たら、皆熱心に前を向いて勉強しているのに、一人だけ後ろ向きに座って歌っていない。よく見たら、うちの子で恥ずかしくなって表へ飛び出した。
   絵: rei

 材木やに勤務中に、長女がNHKに出て合唱するというので、サボッて近所の木工所の居間で、TVを見ていたら出てきたのはいいが、ワンワン泣いている。カメラマンも困って一度しか写さなかった。両隣の女の子の母親には、さぞかし恨まれたことであろう(自分の子が写らないから)。

 昔の事を思い出して、感傷にふけるのは、年をとった証拠と言われるかも知れないが、明治は遠くなりにけり、と中村草田男の名句も忘れさられて、大正も遠くなり、昭和も遠くなりつつある。 
 銀座の中央通りも外国の有名ブランド店が多くなり、小松ストアもすっかり小さくなってしまった。 
蛇足に 「降る雪や昭和も遠くなりにけり」

次回に
岡部伝蔵

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